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選考委員の講評

町田 洋次さん(ソフト化経済センター理事長)

 年毎にビジネスプランは進化していることを実感した。3年前なら社会性の強いビジネスプランをつくることなど、まだ始まったばかりで、机上のプランが多かった。
 こうした事業は目前に「解くべき問題」があり、やむにやまれぬ気持ちでその解き方を考え、ビジネスプランにして実行するものだが、目前の問題が希薄、ただビジネススクール風のプランを作る風潮が蔓延し、私は苦々しく思っていたのである。
 これは相変わらずの知識病で、こんな精神では社会問題など解けるわけがない。こうした不満から、社会事業に成功した事例を研究し、何が大切なのかを考えた時期があったが、私が発見したのは、@原体験、これは現状に対する不満で、うらみでもある、Aそれを語り、共鳴者を集める力、Bやってしまった後で考える精神、未知の領域なので机上でいくら考えても進まない、それなら走りながら修正して行こうという現場主義などであった。 「3年の進化」とは、そうした方向に行っていることを指している。3年でデスクプランから現場主義のプランに変わるのだから、変化は急である。これは現在では希な成長現象で、要は社会事業は成長産業になったのである。
 今回提示されたプランも、成功の要件を備えたものがたくさんあった。作業所での自立した経営を目指す事業は、ヤマト運輸の小倉昌男さんがブレークスルーした後、社会に広く広がり始めたことを思わせるものだった。龍の子学園のろう児手話教育は本邦第一号で、創造的である。佐倉こどもツテーションは、素人がミュージカルを作ろうという地域の文化事業だが、楽しそうで、はつらつとした感じで、関係者が中年女性で明るいのがよい。
選考会でベスト15に選ばれなかったのも含めて、ここにあるのは先端的な事業プランである。まもなく社会の方がこのプランに追いつき、自発的な成長を始めるだろう。


高橋 流里子さん(日本社会事業大学教授)

コムケア活動資金助成の選考過程における雑感
社会が大きく動いている様、そして、私の専門である社会福祉分野に大きなうねりがあることを2年続けて参加した書類選考と公開選考会を通して実感しました。多種多様の活動があること、そして、昨年にもまして従来マイノリティグループであった障害者や高齢者等当事者が活動する姿から伺えたのです。このような動きが社会を変革する原動力になるであろうとも感じました。同時に、これらの活動によって社会はどんな影響を受け、どんな方向に向かっていくのだろうか、どんな社会を"創る"のだろうか、とも考えさせられました。法人化しているか否かに関わらず市民活動としてのNPO(非営利組織)の社会的意義についてです。
市民活動には発想と活動の柔軟性、主体性、自律性、そしてボトムアップの思考・行動、クリエイティビティという官僚制の弱点を越えるところに意義が求められてきたと理解しています。そして、活動が人間にとって有益な社会の形成に役立つのだと考えています。書類や選考会という限られた資料からですが、これらの意義に関して気になる点がありました。
確かに個々の活動テーマは一見目新しいのです。しかし、良くみると旧態依然の発想・手法と思われるものがあり気になったのです。例えば、当事者主体の活動がある一方、無意識であると思われますが、高齢者や障害者を対等な市民というより活動の対象にする保護・パターナリズムの思考が目につきました。また、"住民による"のタイトルとは裏腹に住民はお客様か指導の対象というトップダウンの住民不在の手法や福祉制度や介護保険制度内の対応可能と思われる事業への助成申請があったような気がしました。つまり、今までの行政の発想や手法とどこが違うのだろうか、辛口だが、担い手が行政から市民に移っただけなのではないか、ということです。
官僚制度の弱点を批判して生まれたはずの市民参加や市民活動が、これらの弱点を内在化してしまうのではないか。そうなれば衣を着替えるだけであり、社会の変革も難しい。今回の応募された様々な活動のすばらしさや意義を実感し、活発化する市民活動にエールを送るのである。しかし、同時に、それに潜む危険性の方も見ていかなくてはならないのではないかと感じたのです。


木原 孝久さん(住民流福祉総合研究所)

 NPO助成に関わる選考に参加させていただく楽しさは、そこでNPOの最新のトレンドを発見できる点にある。これぞと思われるグループに共通した〔福祉という営みの〕特徴を敢えて挙げれば、「QOL」となろうか。豊かな時代に入ったわが国では、福祉もまた、相当高レベルの質が求められるようになってきている。その質の中味が多岐に渡っている。
具体的には、例えば〔福祉の〕アート化が挙げられる。福祉の営み、あるいは社会活動を文化芸術にまで昇華させた活動が「目白押し」である。そうすることで、福祉なる営みの臭味が消えていく利点もある。また、介助犬の服づくりとか、多動性の障害児が遊園地で楽しめるような仕掛け作り、院内に芸術的環境をといった、今まで閑却されていた部分、「ちょっと贅沢」と思われていた部分にまで、NPOたちの活動対象領域に入ってきた。
「癒し」というテーマ自体が、豊かな時代の福祉を象徴しており、NPOにもこのたぐいの活動が多いが、その延長で、死後の福祉にまで、私たちの目が向かい始めた。本当の安らぎはこの部分が充足されてからだと、私たちは思い始めている。
これまで障害者福祉といえば「ふれあいまつり」をたまに開催するとか、せいぜい外出支援がメインの活動だったが、ここにきて照準が「経済的自立」に絞られてきた。それも、ただ就労の機会をというだけでなく、古書やパソコンをリサイクルして住民に安く提供するといった、社会の隙間を埋めるような社会貢献的ビジネスを開発するようになっている。
今まで福祉の対象者であった人たちが、逆に担い手になっていくというのも、新しい動きであるが、知的障害者本人がグループを作って、まだ施設に入所している仲間を地域社会に戻させていく、その先頭を切るまでになった。ホームレスの人たちが仲間が仕事に就ける支援をするのもしかり。セルフヘルプグループといえば、当事者の家族や支援者で構成したものばかりだったが、今や本人自身がグループをつくり、発言をし始めた。これで福祉に本当の「革命」が到来するかもしれない。
他にも、セカンドオピニオン容認の病院を発掘とか、地域福祉計画を市民主体でつくる、福祉施設の第三者評価を実行、その情報公開など、これまで専門家が占有していた領域にまで素人の市民が進出してきた。これも一つのトレンドと言えるだろう。


片岡 勝さん(市民バンク代表)

今回、選考された団体とテーマを見ると、良い意味で遊びの要素が加わってきたように思う。
教育、福祉、地域、農業、国際、どれをとっても現代が抱える大きなテーマばかりだ。そして、重い。だけど、そこにアート、デザイン、ファッション、写真展、駅伝などを組み合わせると、なんとなく参加してみようと思うようになる。更にIT活用で気楽さを増す。
私自身、大学闘争から35年、社会の課題解決をライフワークにしてきたものにとって、多様なスタイルで同じミッションを掲げる仲間が増えてきたことに感心してしまう。情報化社会は多様性を条件として創造性を競い合う場だ。思い出すのは内橋克人さんから「共生の大地」で取材を受けたときにされた質問だ。「資本主義に変わる社会でも競争は残ると思うが、片岡さんは、それは何だと思うか?」と言うものだった。即座に答えたのが「創造性の競争が新たな活力を生む社会になる」。皆さんの活動と、コムケア基金が、そんな社会形成を加速することに貢献すると思えた。


北矢 行男さん(多摩大学教授)

 今年は、残念ながら、最終選考会に参加できなかったので、書類審査の段階で感じたことを述べてみたい。結論的に言うと今年のプロジェクトには、ソシオ・ビジネス的アプローチが増えていることが特徴だったように思われる。例えば、「路上生活者仕事起こしプロジェクト」、「障害者の経済的自立を支援する共同作業所」、「畑のフリースクール"手づくり工房&卵ひろい牧場"整備事業」、「障害者雇用の場としての"まちかど図書館事業"」などがその典型的なプロジェクトであろう。昨年の講評で、社会問題解決型のビジネスとして自立しうる可能性を持っているにもかかわらず、ひたすら援助に頼る傾向があることに苦言を呈したが、その点、今年は大きく変化したようである。
 これには、スワンベーカリーの展開で障害者でも月10万円の収入が可能なことを証明し、社会問題解決がビジネスとして成立することを身をもって示した小倉昌男氏の取り組みが注目されたことも大きく影響していると思われる。しかし、ソシオ・ビジネス的展開の増加は、単なる助成支援を越え、コンサルティングセンターとして機能してきたコムケアセンターの3年間にわたる地道で粘り強い活動によってもたらされたものだといえるだろう。
 今年のプロジェクトのなかで、是非、触れておきたいことがある。それは、日本手話によるろう児教育を主導する龍の子学園の取り組みである。日本のろう児教育は、文化省のもとで口話教育が行われている。健常者の口の動きを読み取ることを中心とする教育である。しかし、生まれた時からろう者の人にとって、自分の頭の中に全く存在しない概念を理解することは限りなく困難なことである。そこで幼いろう児が素直に入っていける日本手話と書記日本語によるバイリンガル教育が重要になってくる。こうして、ろう児は自分の言葉を持てるようになってくる。
 このような取り組みは、多様な能力と個性をもった子ども達を育てていくアプローチとして大事なことであり、それは障害児対策を超えた教育の本質に係わる問題である。本来、これへの取り組みは、文化省にとって存立を問われるテーマだと思われる。コムケアの精神は、お上に頼らない自立にある。ここは市民の手で、新しい動きを作り出していくしかないだろう。
 最後に佐藤修さん、三年間ご苦労様でした。貴方の活動に心から敬意を表します。


松原 優佳さん(市民セクターよこはま)

今年もまた、申請書を通して、たくさんの事業プランに出会うことができました。今回選考からもれてしまったプランの中にも、「これはぜひ実現して欲しい」「こんなことを考えている団体には、コムケア仲間に入ってきて欲しい」と思ったものがいくつもありました。その一方で、「果たしてこれが、この目的や目標のための、最適な方法だろうか?」つまり「この部分をもっと詰めれば、もっとよくなる」「コムケア以外で、助成を受けられそう」「こういうアプローチをすれば、助成を受けなくても実現できるのでは」などと思われるものも少なからずありました。公開審査に参加された皆さんも、同じように感じられたのではないでしょうか。
ここから言えるのは、「助成を申請して、審査を受けること」は、自分たちが考えている事業のプランを、外部者の目に触れさせる機会でもあるということ。そして、そのフィードバックを得られれば、プランをよりよいものに改善するチャンスにもなり得るということです。
 幸いにもコムケアのプログラムでは、選考からもれた団体は、その理由やアドバイスなど、事務局からフィードバックを受けることができます。助成を受けるプロジェクトでも「ここをこうすれば、もっとよくなる」と思われる点など、個別意見交換会などを通じて、アドバイスを受けられることになっています。助成を申請された団体の方には、ぜひともそれらのフィードバックを受けて、よりよいプロジェクトにして実現していただきたいと、期待しています。
 また、ひとつ提案なのですが、来年以降、「助成金」がなくなっても、助成金の申請のようなイメージで、コムケアの「共創型相互支援の輪」で、事業の企画書を持ち寄って、お互いにチェックし、アドバイスしあう、相互カウンセリングのようなことをしてはどうでしょうか。外部からのアドバイスを受けて、事業をよりよいものにしていく機会は、他になかなかないと思います。支えあいのひとつの形として提案します。