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  選考委員の講評
コムケア活動支援プログラムの2002年度選考委員の講評です。


(1)市民バンク代表 片岡勝さん

今回、私は次の二つのことに貢献する試みか否かを最大の基準にして、皆さんの申請を審査させてもらいました。
@NPOによるセイフテイーネットの構築
(今回は防犯をテーマにしたものが増えていました)
A社会変革への実験性
(海外での真似ではない、日本での独創性ある活動かで評価しました)
この2点は、これからの時代の社会作りにどうしても必要だが、行政がなかなか対応できていない分野だからです。
私がアメリカで見た1985年のプラザ合意のころの状況に日本が似てきています。社会の崩壊と再生が上手にシフトするかの転換点に、今、日本はいるように思います。だから、不安への対処と受け皿が求められるのです。それを肌身で敏感に感じることができるのは生活者である「ひとりひとりの人間」です。そして、その問題解決に動き出そうというのも自発性に支えられたNPO活動、コミュニテイーセクターなのではないでしょうか。
私が当時、アメリカで見たスラムでの活動は、そういう問題意識から生まれたものでした。例えば、スラムの衛生状態を心配した若者が、そこで起こした洗濯屋NPO活動は目を見張るものがありました。他のコインランドリーよりも安く、だけど、無料ではなくスラム住民に提供された社会サービスは企業の利益至上主義からは生まれなかったでしょう。かなりセキュリテイー面でも心配な地域の活動には行政スタッフも二の足を踏んだことでしょう。しかし、ミッションに目を輝かせる若者の姿は、アメリカの将来を担保していたように思います。
コミュニティケア活動支援センターに寄せられる活動にも私はそれを毎回、感じるのです。時代の雰囲気を敏感に象徴している活動に審査しながら励まされます。そんな中から選ばれた皆さんの活動に事務局がきめ細かく相談にのるのも、この住友生命の助成の特徴でしょう。ぜひ、この金をだすだけではない新しい助成の仕組みを大いに利用していただきたいものです。そして、更には、申請者同士が交流し協力する、そんな輪を広げて欲しいと思っています。皆さんの活動に期待しています。
今回、残念ながら落選した活動にもずいぶんと素晴らしいものがありました。ぜひ、上記の相談業務やNPO間の交流、協力の輪に加わっていただき、助成はなくとも、こんなに自立的に活動したぞ、という報告を頂きたいものです。
それも期待し、「NPOが次代を作ろう」「地域から日本を変えよう」という私のエールとさせていただきます。


(2)多摩大学教授 北矢行男さん

今回、最終選考の大会に初めて参加して、NPOの皆さん一人一人の生の表情に接してとても感激した。と同時に、いくつかの疑問も生じた。
先ず第一は、このようなオープンな場で各NPOがプレゼンテーションをすることによって、最終審査をすることから生じる問題である。要するに、活動の内実に関するシビアな評価より、見栄えの良いパフォーマンスを好み、審査のウェイトがそちらの方に流されたのではないかということだ。とりわけ、車椅子でも着れる浴衣の発表は、テレビクルー付きであったから、他の質実剛健風のNPOの発表と対比すると、ルール違反の趣きがあったのではないだろうか。
もう一つの疑問は、どのNPOも、「自分達は、大事な活動をしており、しかし、それはお金がかかることなので、当然補助してもらっていいはずだ。」というコンセプトで貫かれていたことだ。確かに、儲かりはしないだろうが、やりようによっては、それなりの収益をあげられる取り組みも数多くあったように思われる。事業を取り巻く様々な要素を有機的、相互補完的に組み合わせ、持続可能な社会問題解決ビジネスに転化させていく可能性を追求する姿勢が今ひとつ希薄に思えたのである。
もう一つの論点は、当日、事務局長が話された寄付に関することである。私は、インターネットとニュートラルなイーバンク銀行のようなインフラが存在している今、あとは、我々の知恵次第だと考えている。イーバンクは互いに口座を持っていれば、手数料なしに送金できる小規模決済専業銀行だから簡単に特定の活動に寄付できる。
例えば、コミュニティ相手に安全で美味しいパンを売っている全国の中小零細パン屋が1万軒組織化され、各お店がイーバンクに口座を設け、そこに融通のきく10万円のお金を預ければ、トータル10億円の資金量をもつ自前の銀行が誕生する。ようするにイーバンクは、NPOの自前の銀行として使いまわすことも可能なインフラなのである。
 もはや、銀行が金を貸してくれないなどと泣き言をいうことは許されない。それは我々の知的怠惰を示しているだけだ。コミュニティケアでも、NPOの活動とからめ、イーバンクを活用したファンドレージングの仕組みをいか組み立てていきかを考えるべきではないだろうか。


(3)わかるふくしネットワーク代表 木原孝久さん

時代の要請にマッチした運動というのは、やはりキラキラ輝くものだなと、感心させられます。最近のNPOの動きが、まさにそれです。今まで「ボランティア」という「厳しい縛り」があってなかなか、「もう一歩」へ踏み出せなかった活動家たちが、非営利有償という「やわらかい縛り」の中で、思い切り羽ばたき始めました。従来の福祉機関や団体・グループは躊躇していた試みに、NPOたちは果敢に取り組み始めています。申請のあったグループの活動を見ていると、福祉がこれからどっちへ向かっているのかが鮮明にわかってきます。
例えば、少子化対策として求められているベビーシッターに、10代の子どもたちを活用しようという試み。しかもそのコーディネートまでを10代の子たちにやらせようという。10代の性の悩みを同じ10代の子たちが受け止めるための相談室がこのほど宇都宮市内に誕生したという情報もあります。子どもたちの問題は同じ子どもたちが考え、解決に踏み出す。これが新しいトレンドなのでしょう。子どもたちを地域の様々な社会活動グループへ参加させるという試みも、申請グループにありました。今までなぜ地域グループは子どもを仲間に受け入れなかったのか、不思議でもあります。ソーシャル・インクルージョンという名のもとに、どんな人も地域社会が受け入れていくという旗印を福祉関係者は華々しく立てておきながら、子どもをその運動の対象に加えていなかったのです。
中古のパソコンを修理してNPO等に提供していくという活動を、障害者の作業所でやろうという試みが、選考会参加者の圧倒的な共感を得ていましたが、このことは、もう福祉は、担い手と受け手を区分けする時代ではなく、むしろ今まで受け手とみなされてきた人たちを担い手にひっくり返すべきだという発想が、広がってきたことを示しています。
福祉の新しいトレンドを体現したような試みが、申請グループの中にまだまだたくさん見受けられたのですが、気になるのはそれがまだ「点」にとどまっているということです。いかにユニークな試みでも、全国に普及しないことには仕方がありません。それを、いかに素早く、効率的にすすめるかが、コムケアを含めて、私たちの大きな課題になってきたと、強く感じました。


(4)日本社会事業大学教授 高橋流里子さん

書類選考・公開選考会を通して一般市民が行っている多種多様の領域で活動について知り、一般市民の潜在的力の強さみたいなものを感じました。もちろん、この一般市民とは従来マイノリティグループという扱いを受けていた障害者や高齢者も含めてのことです。しかし、書類選考では事務局から示された選考基準と首っ引きで採点をしてはみたもの大変難しいものでした。申請書類から読み取れることに限界があったためで、それらには書類に書かれている以上の活動ができるのではないか、逆に書類どおりに活動できるのだろうかという思いにかられてしまうものなどがあったからです。書類選考が適正であったかは今でも気にかっております。
それでも限られた選考書類の中でコムケアがめざす理念を持つ団体・組織が見られたことに心強さを感じまた。既成団体・組織では思いもつかない発想で主体性、自律性、自由に活動できるNPO法人等による市民活動の実態が見え、これらの集合体が社会を創っていくのだという実感です。  
一方、気になることもありました。それは組織運営が内実を伴う、理念に向かっているのだろうかというということです。私は市民活動のよさは自由度の高さとクリエイティビティだと考えています。また、「共創」を「共」にクリエイティブな活動で社会を「創る」ものとも理解したい。すると、組織の構成員の対等性や大切さをいかに活動に反映するかが重要になると思うのです。NPO等の市民活動には多様な人が集まり構成するよさを組織が使いこなし、「共」に「創る」ことが実現できるかという危惧です。個より集団を優先する社会、タテ社会に生き、慣れているという弱点が我々にはあるからです。個々人の意見を本当に大切にできる行動様式をもっているのでしょうか。このような弱点により活動のプロセスで根拠なく同質の集団に引きずられ、異質な個人の意見を排除する可能性があります。村落共同体の排除の論理や障害者を異質な集団として社会が排除していたと同じことが、一見活発に見える市民活動で起こりうる、いや起きているかもしれません。NPO法人の増加、そしてその自由度の高さゆえに潜む危険性を感じました。だからこそ市民活動がその過程で「共」の質を問い、「創」のプロセスに注意を払うことが社会の方向性を決めてしまうのであると感じながら選考を進めていました。


(4)ソフト化経済センター理事長代行 町田洋次さん

とびきりよいプランがあった。二つ例示する。
一つは、車椅子の人の"ゆかた"の開発である。山口大学の女学生が自宅の階段から落ち脊髄を痛め車椅子生活になった。彼女はなんとしてもゆかたが着たかったので、車椅子用のそれを開発し、同様な境遇の人たちにこれを広めるためにNPO活動を開始した。
 この話、行政サイドからは贅沢となり、きっと前には進まない。NPOでなくては出来ない話で、NPO活用のよい話である。この事業プラン、京都の知り合いの着物の老舗の社長に話した。この社長自分でボランティア活動をやっているので、感想を聞きたいと思ったのだが、「洋服はきれを縦に着るもの、和服は横に体に巻くもので、車椅子の人がゆかたを着るのは自然で合っている。私がやるべき仕事だった。しまった!」と話していた。私は、あなたにはこの発想がなかった、NPOに負けたのですねとちょっと皮肉を言い、激励したのである。
二つ目の事例は、目が見えない人が映画を見る事業である。妹さんの目が悪い、しかし彼女は映画が見たいと言うので、大学生のお姉さんが考え詰め、映画には会話とバックに流れる音楽があるので、後は場面毎の風景を言葉で語ってやればいいと気づき、「マーガレットはテーブルから階段の方へ進み、階段の下の方に座り、ジョーンをじっと見つめた」など、画面の様子を録音し、テープにしてそれを映画館に持ち込み、映画を観賞するシステムを開発した。
このシステムを広げるのがNPOの使命であるが、これなど世界中の目の見えない人に福音となるであろう。
以上、使命は具体的、かつNPOでなくては出来ない事業プランになっていた。私はこういう人を見ると、「あぁ、彼女らは未来を創っているな」と感動する。こういうのがNPOの得意芸、NPOをやるならこのくらいのことを目指して欲しい。


(5)横浜国立大学非常勤講師 松原優佳さん

今回、初めて選考委員を務めさせていただきました。選考過程を経て、二つほど提案したいことがありますので、講評にかえて記したいと思います。
まず、今回申請された方へ。皆さんの申請書を読み、公開審査でプレゼンテーションを拝見して、「これは素晴らしい、ぜひ実現してほしい!これがうまくいけば、一箇所だけにとどめておくのは、もったいない」と思う案件がいくつもありました。そこでぜひ、申請なさったプログラムについて、どうやって成功させたのか、どうしたらもっと成功するのか、そのノウハウを、思いを同じくする、全国の仲間たちに広げていただきたいと思います。その方法として、もちろん、コムケアの交流会や報告会、ネットワークの利用が挙げられます。そのときに、自分たちのノウハウを伝えることを意識して、情報発信をしてください。
そのような場で効果的に伝えるために、またそこに参加できない人にも広げられるように、さらにコムケアのネットワーク以外の人にも広げるためには、話すだけでなく、伝えるツールが必要です。
たとえば助成期間終了後に提出する活動報告書だけでなく、活動の結果のほかに、(1)作業工程、つまりどうやって作業を進めたのか(スケジュール、担当者の人数・ポジション・スキル、作業の内容など)、それから(2)自分たちでなさった、プログラムの振り返り(うまくいった点とその理由、うまくいかなかった点とその原因・改善点)、これら二つの記録を加えたレポートがあれば、皆さんのプログラムを知って「これはいいプログラムだ」と思う人がまねしやすいと思いませんか?このレポートは、きっと皆さんの活動の、次のステップにも役立つことと思います。
それからもうひとつは、選考方法についてです。書類審査では、10項目の評価基準がありました。この基準の選定に、選考委員も参画させていただけると、どんな視点で審査すればよいか、理解が深まり、一層、コムケアに込められている思いに適った審査ができるように思います。それから、今回は各項目一律5点の配点でしたが、項目によっては10点のものがあってもいいかもしれません。
今回は、選考委員として、コムケアのプログラムに関わりましたが、私も皆さんと同じく、活動者の一人です。ぜひ今後とも、皆さんとつながりを持っていければと思っています。
みなさんのプレゼンを見て、「ずいぶんプレゼンのスキルが高く、しっかりしているな」と思っていたら、前日にかなりアドバイスをなさったそうですね。これで、申請団体の方々は、プレゼンのコツも習得でき、このような「申請するだけでも、メリットがある助成金」は、他になかなか類を見ないでしょうね。